酒井香奈 個展「記憶ノ色彩ヲ巡ル」2018 Art+Craft Gallery 蚕室

制作するにあたり、純粋に絵具との「やりとり」を重ねていく為に
なるべくイメージやビジョンを持たないように心がけている。

画面との「やりとり」
それは、意識とは別の無意識の記憶や、身体が記憶した作用が画面に現れる事を
時に排除し、時に委ねながら、日々繰り返される。

そうしたところから出発した作品が、鑑賞者によって共感され
作者とは違う記憶や想いを想起されてこそ
やっと作品として完成するように思う。

こうした制作への思いは
時に制作者の意識としては「弱さ」とも映る場合もあるかと感じることもあった。

学問として知ってしまった美術の部分と、
どうしようもなく愛おしい子供の頃からの感覚の部分の絵画の矛盾

そうした矛盾を感じながら、日々制作し展示を重ねて行くにつれ
作品も、毎日記憶して閉じ込めたくとも、日々の出会いや出来事にによって、新しい見え方、感じ方へと変わっていくほどに曖昧になっていく。
自身の記憶さえ、外的な影響を受け、変化し更新されて行く日々。

これらの差異を受け止め、芯の部分を磨いて行くことを大事にする。

それさえあれば
良いこと悪いこと双方の影響を受け、変化し、共感し、反発したりしながら、
それを取り込み表現することができるのだろう。
                                  2018年11月